読売新聞

2001年8月19日(日)


三日連載  8/19(日) 8/20(月) 8/21(火) 




おじゃまします〜島原市万町商店街〜


湧水流れる街並み

噴火災害のり越えて

湧水と歴史の町・島原市。
市役所前の大手広場から南にアーケードが続く。「万町商店街」。
市内では最もにぎやかな街並みだ。

商店街入り口で大手川をまたぐのが「よろず橋」。
ステンドグラスを配したドーム風の覆いがあり、
欄干のそばに、郷土が生んだ彫刻家北村西望氏作の「喜ぶ少女」の像が立つ。

わきのベンチで休んでいる高校生に出会った。
島原高二年生の松川法子さん(16)と横田愛美さん(16)。
塾の帰りという二人に商店街の印象を尋ねると、
「夜になると早く店じまいするのでさびしい」との答えが返ってきた。

よろず橋→「喜ぶ少女」の像→水屋敷

商店街を歩くと、五分ほどで古びた木造家屋があった。
狭い戸をくぐると視界が広がった。
池をめぐらせた旧家「しまばら水屋敷」。
水屋敷の主人を名乗るのは石川俊男さん(37)だ。

1995年8月、私邸を公開する形でオープン。
その名の通り、池からは1日4千トンの水がわきだし、
あふれた水は商店街の水路を通じて流れている。

明治時代初頭の建物は商家づくりで、1階が和風、2階が洋風。
同市出身の日本興業銀行頭取を務めた中山素平氏が、若い頃に過ごした。

「朽ち果てようとしていた建物を生かして何かできないか」との発想が水屋敷を生んだ。
何もない状態から始めたが、昨年は13万人の客が訪れるまでに。
「何とか飯が食えるまでになりました」と石川さん。

湧水の中で泳ぐコイ、ハヤ、アメンボを見ながら、
天然水で入れたコーヒーや島原名物のかんざらし(白玉団子)が楽しめる。
その売り上げを屋根などの補修費に充ててきた。


雲仙・島原の噴火災害の時、名水百選に選ばれた「島原湧水郡」の一部は枯れた。
「このまま枯れ果ててしまうのでは」との心配もしたが、どうにか持ちこたえてくれた。

客の受け入れは1グループ6人が限界。
それを超えると待たせてしまうこともあり不評も。
しかし、無料公開は経営上厳しい。
「がまんしてもらうしかない」のだが、
湧水が池の底の砂を巻き上げる様子を見ることができたという
かっての姿を再現したいという。

それが、観光にも商売にもつながる唯一の方法だと信じている。

よろず橋の上で出会った二人の高校生が冷たいかんざらしに舌鼓を打った。
「どれだけでも入るね」と顔を見合わせてほほ笑んだ。



福招く猫の水屋敷

主人・石川さんが集めた招き猫

来月29日は大イベント

水屋敷には、
2階と商店街に面した一角で置物の「招き猫」の販売もしている。
毎年9月29日が「来る福」にちなんだ招き猫の記念日。

今年もこの日を中心に、
全国の招き猫約3千種類1万点を集めた招き猫イベントを行う。

福運や金運を招くという置物は全国でブームだ。

実家が呉服を取り扱っていたので、和風の縁起物には興味があった。
特に招き猫は、普賢岳噴火災害で精神的にも肉体的にも落ち込んでいる時に、
その表情が心を和ませてくれた。

「それまでは自分の趣味として飾っていたんですが、
 欲しいというお客さんが多くて」
それからは仕入れるごとに売れていき、
今では、西日本でも有数の招き猫スポットになった。

縁起物の招き猫と水屋敷。
このミスマッチが、また、湧水の観光地に似合っている。

丸い顔に眼鏡をかけあごひげを蓄えた石川さんの「次の作戦」から目が離せない。



江戸時代から知られる商店街

メモ

島原市万町の商店街は、
市役所に最も近く、同市のナンバーワンの商店街だった。
江戸時代から存在が知られ、市内きっての優良専門店がそろっていた。

全長240mのアーケード通りに33の店舗がある。
しかし、郊外型の大型店舗の進出や雲仙・普賢岳の噴火災害の影響で、
くしの歯が抜けるように空き店舗が目立つようになった。

市の人口が4万人を切り、人口減少の歯止めがきかない状態が続く。
買い物客や観光客を引き戻す動きが市内のあちこちの商店街で起きている。

「市場など食料品店がないので活気に乏しい」などの厳しい見方もある。
そんな万町でも新しい施設を建設したり、
離れつつある客や観光客をとらえる様々な動きが続いている。



まちづくりのページに戻る